甘い旅

常連さんに教わって、向島へ。二軒の老舗と、思わぬ出会いの一日

東京に出る用事があった日のこと。当店の常連さんに教えてもらった和菓子屋を、二軒、訪ねてみることにしました。「向島って、いいですよ。一度、行ってみてください」その一言を頼りに、車を走らせて、隅田川の方へと向かいました。一軒目──言問団子ふらっ...
甘いものの記憶

青島みかんを、和菓子に──ある方からの相談から、3年の物語

ある日のことだった。以前から知り合いだった一人の女性から、こんな話を聞いた。「ある事情があって、青島みかんの栽培を任されることになったんです」私が和洋菓子店を営んでいることを、彼女は知っていた。だから続けて、こうおっしゃった。「自分が育てた...
お菓子の作り方

63cmの木枠で焼く、新月堂のカステラ──朝霧の卵と牛乳で守る、60年の手仕事

工場の奥に、一辺63センチほどの大きな木枠がある。木の縁が深く焦げ色を帯び、長く使い込まれてきたことを物語っている。新月堂のカステラは、この木枠ひとつから焼き上げられる。カステラは、見た目はシンプルでも、作り手の腕がそのまま現れる和菓子だ。...
甘いものの記憶

60年、母から受け継いだ餡練り機——あんこに込めた、私のこだわり

工場の隅に、いつもその機械はある。深緑の鉄の体に、直径60センチの銅鍋。スイッチを入れると、ゆっくりと木のヘラが回り始める。60年、休むことなく動き続けてきた、新月堂の餡練り機だ。この機械の前に立つたびに、私は母の背中を思い出す。60年、動...
甘いものの記憶

この季節だけの味——柏餅に、私のスパイスを加えて

端午の節句が近づくと、工場に柏の葉の香りが漂いはじめる。この香りを嗅ぐたびに、私は決まって子どもの頃に引き戻される。小学生のころ、この時期になると両親は夜遅くまで製造場にこもっていた。灯りの消えない工場。黙々と手を動かす背中。眠い目をこすり...
甘い旅

富士宮市のケーキ屋「新月堂」|和菓子もケーキも揃う創業60年の老舗

富士宮市の住宅街を歩いていると、白い2階建ての建物が目に入る。「手づくりケーキ・和菓子の店 新月堂」。創業60年以上、地域に愛され続ける老舗だ。ガラス張りの入口から中を覗くと、すぐにショーケースが目に飛び込んでくる。いちごショートにプリン、...
甘いものの記憶

スポンジと向き合った30年 ── 受け継いだ味を、自分の味にするまで

父と母から引き継いだのは、レシピだけじゃない。お客さんとの信頼も、積み重ねてきた歴史も、全部ひっくるめて「新月堂の味」として受け取った。それがプレッシャーにならないわけがなかった。同じ味を守ることへの、静かな違和感店に立ち始めた頃、私はひた...
甘いものの記憶

アップルパイへの想い

アップルパイへの想いアップルパイへの想い私が店のケーキを作るようになった頃・・・27歳の頃ですから、かれこれ30年以上は経ちました。 どうしてもアップルパイを店頭に出したい!! そんな気持ちで試行錯誤してきました。 私自身パイが好きなことも...
甘いものの記憶

秘伝〜富士宮プリンの秘密〜

富士山を仰ぎながら歩く静岡県富士宮市の旧道沿いに佇む、60年以上の歴史を持つ老舗菓子店「新月堂」があります。地元の人々に愛され続けてきた秘訣と長年にわたって温めてきた「秘伝プリン」の秘密を、今回初めて語ろうと思います。「これが答えだ」と思え...
甘いものの記憶

カステラでのスランプの話〜忘れられない優しい背中〜

お菓子作りを長く続けていると、調子の波のようなものが訪れます。それでも、まさか自分が抜け出せないほどのスランプに陥る日が来るとは思っていませんでした。今回は、私がそのトンネルの中でもがいていた時、そっと手を差し伸べてくれた "ひとつの出会い...