常連さんに教わって、向島へ。二軒の老舗と、思わぬ出会いの一日

甘い旅

東京に出る用事があった日のこと。
当店の常連さんに教えてもらった和菓子屋を、二軒、訪ねてみることにしました。

「向島って、いいですよ。一度、行ってみてください」

その一言を頼りに、車を走らせて、隅田川の方へと向かいました。

言問団子のお皿に並んだ団子三個と緑茶

一軒目──言問団子

ふらっとたどり着いたのが、言問(こととい)団子でした。

茶屋というか、和菓子屋というか、その両方の佇まいを残したお店。ガラス扉を開けて店内に入ると、情緒のある落ち着いた空気が流れていました。

言問団子の店外観

お団子とお茶のセットをお願いします。

出てきたのは、小さなお皿に並んだ三個の団子。
白、黒、そして黄色

白は白あんで包んだもの。黒はこしあん。黄色いのは何かと尋ねると、外側を求肥で包んだ味噌餡のお団子だといいます。

団子三個のアップ。こし餡の断面が見える

ひとくち口に運ぶと、あんこの甘さがすっきりと舌に乗ります。中に隠れているお餅が、ふんわりではなく しっかりと腰がある。気がつくと、ぺろっと三個いただいていました。

そして、団子が乗っていたお皿。鳥のような絵柄が描かれた、味のあるお皿でした。
「このお皿、絵柄が五種類あるんですよ」 と教えていただいて、思わずもう一度見直してしまう。

商品を減らし、ひとつの団子を磨き続ける。それでいて、出てくる器にこんな遊び心が宿っている。お店の奥行きを、ふっと感じた瞬間でした。

店内に飾られた古い写真と展示品

店内には、隅田川の 渡し船 があった当時の古い写真も飾ってあります。往時、川を渡る船を待つ間、人々はここで団子をいただいていたのだろうか。そんな想像が、ふと頭をよぎりました。

ショーケースに並ぶ最中と団子

そして気づくのは、商品が 最中と団子の二種類だけ だということ。ラインナップを増やさず、これだけで店を続けている。和菓子屋として、伝統を守る心意気がそこにありました。

振り向くと、東京スカイツリー

団子をいただいて、店を出る。
ふと振り返ると、すぐそこに 東京スカイツリー が見えていました。

言問団子から振り返ると、すぐそこに東京スカイツリー

江戸の風情を残した言問団子と、現代の象徴。時代が混ざり合うこの景色こそ、向島という町の魅力なのかもしれません。

二軒目──志満ん草餅

言問団子から、五百メートルほど離れた場所。小さな看板を頼りに歩いていくと、テイクアウト専門の小さな店、志満ん草餅(しまんくさもち)にたどり着きます。

テイクアウト専門の小さなお店、志満ん草餅

商品ラインナップはシンプルでした。餡入り草餅、餡なし草餅、笹団子、みたらし団子、どら焼き。それだけ。

それなのに、店内には先客がいて、奥からは電話注文の声も聞こえます。

「ああ、ここはきっと顧客の多いお店なんだな」
お店の空気で、それが分かりました。

価格はどれも一八〇円ほど。リーズナブルな値段に、お店の姿勢を感じます。

志満ん草餅の草餅と笹団子

口に運んでみると、どのお菓子も 素朴で飽きの来ない味 でした。何度でも食べたくなる、そういう味です。

特に草餅は、よもぎがふんだんに入っていて、香りがすうっと鼻に抜けていきます。当店もよもぎを使う和菓子にはふんだんに入れているつもりでした。しかしここは、それ以上の量を使っている。ひとくちで、それが分かりました。

二軒から、学んだこと

訪ねた二軒は、店構えも、規模も、商品ラインナップも違いました。

しかし共通していたのは、大黒柱となるお菓子があり、それを求めてお客さまが足を運んでいる ということでした。

団子だけ、草餅だけ。シンプルなのに、それを目当てに人が集まる。地域も時代も違うけれど、店づくりの本質を学ばせていただいた気がします。

思わぬ出会い ①──長命寺桜餅

二軒を巡る途中、近隣の案内地図をふと眺めていました。

「長命寺」というお寺が近くにある。そう気づいて、頭の中である言葉が浮かんできました。

「これって……関東で有名な、あの長命寺桜餅と関係があるのでは?」

長命寺桜餅の山本やの看板

調べてみると、まさにそのお寺が由来でした。敷地内のすぐ横に「山本や」という、長命寺桜餅を看板にしたお店があります。

残念ながら、月曜・火曜がお休み。今回は訪れることができませんでしたが、次は必ずと心に決めて、その場をあとにしました。

思わぬ出会い ②──王貞治少年野球場

もうひとつ、こぼれ話を。

言問団子のすぐ裏に、小さな野球場があります。ふと目に入ったプレートに、どこかで見たことのある名前が刻まれていました。

王貞治野球場

近くに立っていた説明文を読んでみます。

世界のホームラン王・王貞治さんが、少年の頃にプレイしていた場所でした。

今でもきれいに整備され、大事に使われている様子が伝わってきます。ひとつの場所が、こうして長く受け継がれていく。和菓子屋も、野球場も、変わらないのかもしれない、と思いました。

おわりに

ヒョンなことから訪れることになった、向島の二軒の老舗。そしてそこから広がった、長命寺桜餅と王貞治少年野球場との出会い。

東京に向かう道すがらの、ほんの数時間。それでも、和菓子について、店づくりについて、町について。たくさんのことを教えていただいた、楽しい時間となりました。

教えてくださった常連さま、ありがとうございました。
また訪ねます。今度は、長命寺桜餅もぜひ。

訪問先

  • 言問団子:東京都墨田区向島5-5-22(最中・お団子のお店)
  • 志満ん草餅:東京都墨田区堤通1-5-9(草餅・どら焼きなどテイクアウト専門のお店)

※情報は2026年5月時点。営業時間・定休日は変動がありますので、訪問前に各店にご確認ください。

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