銘菓になりきれなかったお菓子の話|富士宮「しゃれて鱒」

焼き上がったニジマスの形の菓子が鉄板に並ぶ お菓子語り

今日、YouTubeに動画を公開しました。「しゃれて鱒(しゃれてます)」という、富士宮のお菓子です。

ニジマスの形をしています。名前のとおり、洒落です。

そして正直に書きますが、このお菓子は、銘菓になりきれませんでした。

今日はその話をします。

富士宮やきそばが、全国区になった頃

二十二年ほど前のことです。

富士宮は、B級グルメで一気に全国に知られる街になりました。やきそばです。あの頃の勢いを、この街にいた人はよく覚えていると思います。

菓子屋も、続きたかった。

富士宮市菓子工業組合で、「地元の銘菓を作ろう」という話が持ち上がりました。みんなで知恵を出し合ったのです。

富士山ではなく、ニジマスを選びました

まず出たのは、やはり富士山でした。

けれど富士山をかたどったお菓子は、すでにいくつもありました。あとから同じものを出しても、埋もれてしまう。

そこで目をつけたのが、ニジマスです。

富士宮は、ニジマスの出荷量が日本一です。富士山の湧水で育ちます。地元の人にとっては当たり前すぎて、案外気づかない。けれど、これほど富士宮らしいものもありません。

名前は「しゃれて鱒」。「洒落」と「おしゃれな菓子」を掛けました。

中身は、地元の牛乳を練り込んだミルク餡を、バター風味のカステラ生地で包んでいます。魚の見た目とは裏腹に、やさしい甘さです。

見た目とのギャップが、この菓子のいちばんの面白さでした。

卵を塗ったニジマスの形の生地

それでも、広がりませんでした

根強く買ってくださる方はいます。二十二年、それは途切れていません。

ただ、爆発的には広がりませんでした。

理由は、いくつか思い当たります。

鱒は、川魚です。川魚には「臭み」のイメージがついてまわります。実際にはミルク餡の菓子ですから、魚の味はまったくしません。それでも、名前と形で身構えてしまう。

魚とお菓子。このアンバランスさは、面白がってもらえる一方で、手に取る前の一歩を止めてしまったのかもしれません。

土産物として選ぶとき、人はまず間違いのないものを選びます。変わったものは、二番目以降になります。

十店舗が、三店舗になりました

作り始めた当時、この菓子を製造販売していたのは十店舗ほどでした。

いまは、三店舗です。

マルキーズ洋菓子店さん、上野製菓さん、そして、うちです。

理由ははっきりしています。高齢化と、後継者不足です。

作っている店も、いつまで作れるか分かりません。

この形は、木の型で一つずつ作ります。尾を押さえて、頭に向けて。手が覚えている作業です。

木の型でニジマスの形をつくる職人の手

一つの菓子が役割を終えるのも、自然なこと

寂しい話をしているつもりはありません。

一つの菓子が役割を終えるのも、自然なことだと思うのです。

二十二年前、この街の菓子屋が集まって、何かを作ろうとした。その事実は残ります。そして、新しい息吹が、また新しい銘菓を作り上げていくのだと思います。

実際に、動き出している話もあります。大学と連携した取り組みが始まっているのです。まだ詳しくは書けませんが、私たちの世代とは違う知恵で、違うものが生まれてくるでしょう。

時代に応じて変わっていくのも、お菓子です。

だから私は、変わらずに作り続けます。受け継いだ思いのぶんだけ。

まだ店に並んでいます。名前で笑って、食べて驚いてください。


富士宮市菓子工業組合のサイトに、「しゃれて鱒」のページがあります。
誕生の経緯や、お求めいただけるお店のことも載っています。

富士宮市菓子工業組合「しゃれて鱒」

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