なぜYouTubeで、配合まで全部公開するのか

焼き上がったカステラに包丁を入れる職人の手 甘いものの記憶

最近、よく聞かれるようになりました。

「どうしてYouTubeを始めたんですか」

菓子屋がカメラを回している。しかも、配合まで全部出している。不思議に思われるのだと思います。

理由は、二つあります。

一つは、単純な話です

一度きりの人生だから。

楽しそうだなと思ったことは、やってみる。それだけです。

うちのお菓子を知ってもらいたい、店のことも知ってもらいたい——そういう気持ちももちろんありました。でも、いちばん最初にあったのは、面白そうだという気持ちでした。

もう一つは、あの朝のことです

こちらが本当の理由です。

以前、カステラでひどいスランプに陥ったことがあります。何度焼いても失敗が続いて、出口が見えなくなりました。

助けてくれたのは、同業のAさんという方でした。恥を忍んで訪ねた私に、Aさんはこう言ってくれました。

「明日の朝、仕込みから焼き上げまで全部見せるよ」

職人の世界で、仕込みを見せるというのは、当たり前のことではありません。

それでも、見せてくれた。だから、私は抜け出せました。

この時のことは「カステラでのスランプの話〜忘れられない優しい背中〜」に書きました

木枠に流し込まれたカステラの生地

私が動画で工程も配合も全部出しているのは、あの朝の続きのつもりです。

きっかけが一つあれば、人は諦めずに進めます。 それは、自分の経験でわかりました。だったら今度は、そのきっかけを渡す側になりたい。

Aさんのように、訪ねてきた人を迎えられる人間でありたい——そう書いたことがありますが、実際には、そう何人も訪ねてくるわけではありません。

でも、動画なら届きます。 顔も知らない、どこかの誰かに。

続けていたら、思わぬことが起きました

お菓子の講習会を頼まれることがあります。相手は一般の方や、これから作ってみようという初心者に近い方です。

これまでは、そのたびにレシピを作り直して、言葉で説明していました。

生地の混ぜ具合、生地の落ち方、焼き上がりの見極め。言葉では、どうしても伝わりきらない部分があります。

それが、いまは違います。

「この動画を見てください」

スポンジの動画を一本紹介するだけで済むようになりました。餡の炊き方も同じです。

作ったときは、そんなつもりはありませんでした。自分のためでも、店のためでもなく、過去に自分が積み上げたものが、勝手に働いてくれている。 そういう感覚です。

銅鍋の中で練り上げられていくあんこ

お菓子は食べるとなくなる。動画は、残り続ける

続けてみて、自分でも驚いたことがあります。

お菓子は、食べるとなくなります。

どれだけ手をかけても、その日のうちに消えていく。それが菓子屋の仕事です。悪いことではありません。むしろ、そうであってほしい。

でも、動画は、作ると残り続けます。

同じ「作る」という作業なのに、残るという別の楽しみが生まれた。これは始める前には想像もしていませんでした。

一年二ヶ月が経ちました。ブログにも広がって、思っていた以上に良いことが多かったと感じています。

いまスランプの中にいる方が、もしこの中にいらっしゃったら。

きっかけは、一つあれば十分です。 そのきっかけが、うちの動画のどこかにあれば、これほど嬉しいことはありません。

チャンネルはこちらです

工程も配合も、隠さずに出しています。
お菓子づくりの動画を、毎週金曜に公開しています。

ケーキ屋しんちゃん(YouTube)

もし何か一つでも、あなたの役に立つものがあれば嬉しいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました