ある日のことだった。
以前から知り合いだった一人の女性から、こんな話を聞いた。
「ある事情があって、青島みかんの栽培を任されることになったんです」
私が和洋菓子店を営んでいることを、彼女は知っていた。
だから続けて、こうおっしゃった。
「自分が育てたものを、何か形にできないでしょうか」
それが、3年前。
すべては、彼女のその一言から始まった。

「自分が育てたものを、何か形に」
青島みかんを育てるのは、彼女にとって新しい挑戦だったという。
それでもひと房ひと房、丁寧に、手をかけて育てていく。地元・静岡を代表する柑橘の名は知られていても、それを育てるのは並大抵のことではない。
ふっくらと丸い実に、彼女の一生懸命さと、
「自分が育てたものを、誰かに喜んでもらえる形に」
という思いが、ぜんぶ詰まっている。
「やってみましょう」と答えたものの、ここから長い試行錯誤が始まることになる。

最初の壁──果汁では、引き立たない
試作のはじめは、果汁を使うことから考えた。
新鮮なみかんを絞り、生地に練り込み、白あんに合わせる。誰でも思いつく、まっすぐな発想だった。
ところが、できあがった和菓子をひとくち食べてみても、みかんの味が、思ったように引き立たない。
何度配合を変えても、桜葉や白あんの中に、みかんが消されてしまう。
「彼女が育てたみかんを、もっと前に出したい」
そう思いながら、また試作の机に戻る日々が続いた。
転機──「これだ」と思った瞬間
転機は、思いがけないところから訪れた。
自家用に仕込んであった、青島みかんのマーマレード。冬の出荷時期に、皮付きのまま丸ごと煮詰めて作っておいたもの。ふとした思いつきで、それを試作に入れてみた。

ひとくち口に運んだ瞬間。
「これだ」と、思った。
果汁では消えてしまっていたみかんの主張が、皮ごと煮たマーマレードの中に、はっきりと残っていた。
ほろ苦さと、甘さと、香り。
青島みかんが、ここでようやく、白あんと出会えた気がした。
道明寺しずく、完成
そこからは早かった。
道明寺粉と餡の比率は、何度も試した結果、1:1という黄金比にたどり着いた。道明寺粉のつぶつぶ食感と、自家製白あんのなめらかさが、ちょうど真ん中で出会う配合。
道明寺粉は、4つ割の粗めのもの。特別なものは使わない。代わりに、ひとつひとつ職人が両手で包む手仕事に時間をかける。

白あんは、生あんから自分の手で練り上げる。すっきりとした、舌に残らない甘さ。
そこに、1月に仕込んで冷凍保存しておいた青島みかんのマーマレードを忍ばせて、国産の桜葉で、ひとつひとつ包む。
そうして3年越しに完成したのが、「道明寺しずく」。2026年の新作として、店頭に並べることになった。
「しずく」という名前
3年の試行錯誤の末に完成したこのお菓子に、どんな名前をつけようか。いくつもの候補を並べて、最後は妻と相談しながら「しずく」を選んだ。
道明寺粉のつぶつぶが、白あんと出会って、ひと粒の雫になる。
桜葉に包まれた、初夏の朝露のような、ひと粒。
「道明寺しずく」と、声に出してみる。
ふっと、口の中に何か清々しいものが落ちてくる気がした。
口の中に、初夏

ひと粒、口に入れていただくと、桜葉のほのかな香りに続いて、道明寺粉のつぶつぶ食感。やがて、白あんのなめらかさと、青島みかんがふわりと現れる。
初夏の色、初夏の香り、初夏の味。
口の中に、初夏の清々しさが広がる。
冷やして召し上がっていただくと、いっそう美味しくお楽しみいただけます。
3年の試行錯誤の先に

ある一人の女性からの相談から、3年。
ご縁が、素材になり、
素材が、試行錯誤を重ねて、
試行錯誤の先に、ひとつのお菓子が生まれた。
道明寺しずくは、新月堂だけのお菓子ではない。青島みかんを丁寧に育ててくださっている彼女の一生懸命さと、「お菓子に」と託してくださった信頼と、3年間、諦めずに試した時間が、ぜんぶ詰まっています。
店頭に並んでおります。富士宮にお越しの際は、ぜひ手に取ってみてください。
商品情報
- 商品名:道明寺しずく
- 価格:1個 160円
- 販売:店頭にて
- お召し上がり方:冷やして美味しい
動画で見る、道明寺しずく
※YouTube動画はこちらhttps://youtube.com/shorts/K4r5_mUOhXY
職人が両手で白あんを包む工程を、BGMだけでお届けしています。
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店舗情報
- 店名:新月堂
- 住所:静岡県富士宮市青木325-12
- 電話:0544-27-0114
- 営業時間:8:00〜20:00
- 定休日:月曜日
