端午の節句が近づくと、工場に柏の葉の香りが漂いはじめる。この香りを嗅ぐたびに、私は決まって子どもの頃に引き戻される。
小学生のころ、この時期になると両親は夜遅くまで製造場にこもっていた。灯りの消えない工場。黙々と手を動かす背中。眠い目をこすりながら覗きにいくと、柏の葉と餅の甘い香りが漂っていた。あの光景が、私の柏餅の原点だ。

白・みそあん・よもぎ。三種それぞれに、想いがある。
白いお餅にこし餡、薄黄色のお餅にみそ餡、よもぎのお餅に粒あん。お餅の色を見れば、中身がわかる。個性的な三種類が揃うのが、新月堂の柏餅だ。両親から受け継いだ、変わらない形。

正直に言うと、子どものころはみそ餡が苦手だった。あの甘じょっぱさが、どうにも慣れなかった。白かよもぎばかりを選んでいた記憶がある。
それがいつからだろう。年を重ねるごとに、みそ餡の味が体に馴染んでいった。甘さの中にある塩気とコク。今では三種のなかで一番手が伸びるのがみそ餡になった。味覚というのは、人生とともに育つものだと思う。
変わらぬ製法に、私のスパイスを。
両親から受け継いだ製法は、基本的に変えていない。伝統のひとつに、形がある。兜を意識した形を、ひとつひとつ手で作り上げる。機械では出せない、手仕事の丸み。その形を守ることも、新月堂の柏餅であることの証だ。

ただ一か所だけ、自分のこだわりを加えた。餡に使う砂糖だ。
前々から砂糖の重要性は感じていた。餡の甘みは、砂糖の選び方ひとつで大きく変わる。そんなとき、問屋さんから「ロックD」という砂糖を紹介していただいた。氷砂糖を砕いたものだそうだ。実際に使ってみると、同じ分量なのにすっきりとした甘みに仕上がった。くどくない。でも、ちゃんと甘い。今の時代に合う甘さだと感じている。これが、私が柏餅に加えた、自分だけのスパイスだ。

この季節にしか、作れない。
柏餅は4月から5月後半までしか並ばない。毎年この時期だけ、工場に柏の葉の香りが戻ってくる。
あの夜遅くまで灯っていた明かりを思い出しながら、今年も餡を練る。生地を作る。お餅で餡を包め。変わらないものと、少しずつ育てていくもの。その両方を大切に、新月堂の柏餅は今年も店頭に並ぶ。

店舗情報
- 店名:新月堂
- 住所:静岡県富士宮市青木325-12
- 電話:0544-27-0114
