春と秋のお彼岸、それからお盆。この時期が近づくと、棚から型を出してきます。
落雁の型です。
木に、菊や蓮の花が彫り込んである。指でなぞると、彫りの底が少しつるつるしています。何十年ぶんの粉と手が、そこを磨いたのだと思います。

いつのものか、分かりません
うちにある型は、ほとんどが先代の頃からのものです。
それに加えて、店じまいをされた方から譲り受けたものもあります。「使ってくれるなら」と言って、置いていかれる。そういう型が、いつのまにか増えました。
だから、一つひとつに歴史があるはずなのですが、いつ頃のものかは分かりません。聞いておけばよかったと思いますが、聞いたところで先方も分からなかったかもしれません。
はっきり言えるのは、私が物心ついた時にはもう落雁を作っていたということです。だから少なくとも五十年はくだらない。それだけは確かです。

落雁は、飾ったあとに食べるお菓子です
落雁というと、「お供えするもの」「固くて食べないもの」と思っておられる方が多いかもしれません。
うちの落雁は、飾り終えたあとに食べていただけるように作っています。
材料は、寒梅粉と上白糖、それに少しの水だけです。それだけ。
余計なものを入れていないので、口に入れるとすっと溶けます。お供えして、下げて、お茶と一緒に。そういう食べ方をしてくださる方が多いです。
「食べるのが楽しみで」と言って買っていかれる方が、実際にいらっしゃいます。
鯛の型が、あります
うちの型の中に、鯛があります。蛤も、海老もあります。
落雁というと仏事のものだと思われがちですが、もともとはお祝いにも使われていました。鯛、蛤、海老。並べてみると、なるほど縁起物ばかりです。
婚礼や、お祝いの席に。そういう場に落雁が出ていた時代があったのだと思います。

この型だけ、木ではありません。金属でできています。
鱗の一枚一枚、目のふち、ひれの筋まで入っています。木を彫るのとは作り方が違う。それだけ手をかけて作られた型だということです。祝い事の菓子は、それだけのものだったのだと思います。

ただ、いまはもう使う方がいません。
型だけが残っています。彫りはきれいなままです。使われなくなったから、減らないのです。
去年から、ぶどうを作っています
その型を、去年から別のことに使い始めました。
花まんじゅうです。お盆やお彼岸に、野菜や果物や花をかたどってお供えするお饅頭。あれの、ぶどうの粒を作るのに使っています。
といっても、ぶどうの型があるわけではありません。
三角落雁を作るための型を使っています。三角形の板に、丸い窪みがずらりと並んだ型です。この窪みを使い落雁の粉を押し入れていくと三角落雁になります。
その窪みだけを、ぶどうの粒に流用しているのです。
型には大小あって、小さいほうを使います。特大の型もありますが、あれではぶどうになりません。

理由は、大したことではありません。なんとなく、ぶどうの粒を作るのに向いていると感じた。それだけです。
でも、やってみるとうまくいきました。落雁のために彫られた窪みが、五十年経って、饅頭の飾りを作っている。そういうことが起きるのだなと思いながら、いまも使っています。
売れる数は、減っています
正直に言えば、落雁の販売量は減っています。
お彼岸やお盆に、落雁を供えるという習慣そのものが、少しずつ薄れているのだと思います。それでも根強く求めてくださる方はいます。毎年、この時期になると買いに来てくださる。
ただ、魅力をうまくお伝えできていないのだろうな、とも思っています。
先日、花まんじゅうのことを書いたら、思いのほか反応をいただきました。あれも作る店が減ったお菓子です。知られていないだけで、求められていないわけではない。
落雁も、そうかもしれません。
型は、使い続けているかぎり現役です
型は、放っておけば眠ってしまいます。
鯛の型は、いま眠っています。三角落雁の型は、去年からぶどうを作りはじめました。
先代が使い、店を閉じた方が託し、いまうちにある。使い続けているかぎり、この型はまだ現役です。
今年の彼岸も、また出してきます。
新月堂(しんげつどう)
静岡県富士宮市青木325-12
電話:0544-27-0114
営業時間:8:00〜19:30/定休日:月曜日
※ 落雁は春秋のお彼岸・お盆に向けてお作りしています。


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